創世記 29:1-35, 創世記 30:1-43 JCB

創世記 29:1-35

29

ラケルとの出会い

ヤコブはさらに旅を続け、ついに東の国に着きました。 そこは広々とした牧草地で、見ると、井戸のそばに羊が三つの群れになって寝そべっていました。井戸の口には重い石のふたがかぶせてあります。 羊の群れが全部そこに集まるまで石のふたをはずさないのが、この地方の習慣でした。水をやったあとは、また元どおり石でふたをしておくことになっていました。 ヤコブは羊飼いたちに近づき、どこに住んでいるのか尋ねました。

「ハランだよ。」

「では、ナホルの孫でラバンという人をご存じでは?」

「ラバンだって? ああ、よく知ってるよ。」

「そうですか。その方はお元気ですか。」

「元気だとも。順調にやっているしね。ああ、ちょうどよかった。ほら、あそこに羊を連れてやって来る娘、あれが娘さんのラケルだ。」

「ありがとうございました。ところで余計なことかもしれませんが、羊に早く水をやって、草のある所へすぐ帰してやらなくていいのですか。こんなに早く草を食べさせるのをやめたら、腹をすかせませんか。」

「羊や羊飼いがみな集まるまで、井戸のふたは取らない決まりでね。それまで水はお預けなんですよ。」

話をしている間に、ラケルが父の羊の群れを連れて来ました。彼女は羊飼いだったのです。 ヤコブは、彼女が伯父ラバンの娘で、いとこに当たり、羊はその伯父のものだとわかったので、井戸に近づいて石のふたをはずし、羊に水を飲ませました。 それから、ラケルに口づけしました。あまりうれしくて気持ちが高ぶり、とうとう泣きだしたほどです。 そして、自分は彼女の叔母リベカの息子で、ラケルにとってはいとこなのだと説明しました。ラケルはすぐ家へ駆け戻り、父親に報告しました。甥のヤコブが来たのです。すぐ迎えに行かなければなりません。ラバンは取る物も取りあえず駆けつけ、大歓迎で家に案内しました。ヤコブは伯父に、これまでのことを語りました。話は尽きません。

「いやあ、うれしいなあ。甥のおまえがはるばるやって来てくれたのだからな。」ラバンも喜びを隠せません。

ヤコブの結婚

ヤコブが来てから、かれこれ一か月が過ぎたある日のこと、 ラバンが言いました。「ヤコブ、甥だからといって、ただで働いてくれることはないんだよ。遠慮しなくていい。どんな報酬がほしいかね。」

ラバンには二人の娘がありました。姉がレア、妹があのラケル。 レアは弱々しい目をしていましたが、ラケルのほうは美しく、容姿もすぐれていました。 ヤコブはラケルが好きだったので、ラバンに言いました。「もしラケルさんを妻に頂けるなら、七年間ただで働き、あなたに仕えます。」

「いいだろう。一族以外の者と結婚させるより、おまえに嫁がせるほうがいいから。」

ヤコブは、ラケルと結婚したい一心で、七年間けんめいに働きました。彼女を心から愛していたので、七年などあっという間でした。 ついに、結婚できる時がきました。「さあ、すべきことはみなやり終えました。約束どおりラケルさんを下さい。彼女といっしょにさせてください。」

ラバンは村中の人を招いて祝宴を開き、みんなで喜び合いました。 ところがその夜、暗いのをさいわい、ラバンは姉のレアをヤコブのところに連れて行ったのです。ヤコブはそんなこととはつゆ知らず、レアといっしょに寝ました。 ラバンは、奴隷の少女ジルパをレアにつけてやりました。 朝になって、ヤコブが目を覚まし、見ると、レアがいるではありませんか。憤まんやる方ない気持ちです。すぐさまラバンのところへ行き、食ってかかりました。「なんてひどいことをするんですか! ラケルと結婚したい一心で、私は七年も骨身を惜しまず働いたんですよ。その私をだますなんて、いったいどういうことですか!」

「まあ、気を落ち着けてくれ。悪かったが、われわれのところでは、姉より先に妹を嫁に出すことはしないのだよ。 とにかく婚礼の一週間をこのまま過ごしてくれたら、ラケルもおまえに嫁がせよう。ただし、もう七年間ここで働いてもらうということになるが。」

こううまく言い抜けられては、しかたありません。 ヤコブはさらに七年働くことにしました。そして、ようやくラケルと結婚できたのです。 ラケルは奴隷の少女ビルハを召使として連れて来ました。 こうしてヤコブはラケルと床を共にしました。ヤコブはレアよりも彼女のほうを愛していたため、さらに七年も余計に、ラバンのもとで働いたのです。

レアとラケルの争い

ヤコブがレアに冷たくするので、主は彼女に子どもを授け、ラケルには子どもがいませんでした。 レアが産んだ最初の子は男の子で、レアは、「主は私の苦しみをわかってくださった。子どもができたのだから、夫もきっと私を愛してくれるでしょう」と言って、ルベン〔「私の息子を見てください」の意〕と名づけました。 次も男の子で、彼女は、「主は私が愛されていないと知って、もう一人子どもを与えてくださった」と言って、シメオン〔「神は聞いてくださった」の意〕と名づけました。 さらに三人目の子どもが生まれました。今度も男の子で、彼女は、「三人も男の子を産んだのだから、今度こそ愛してもらえるに違いない」と言って、レビ〔「結びつく」の意〕と名づけました。 さらに子どもが生まれました。また男の子で、彼女は、「今こそ主をほめたたえよう」と言って、ユダ〔「ほめたたえる」の意〕と名づけました。そのあと、彼女には子どもが生まれませんでした。

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創世記 30:1-43

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一方、ラケルは自分が子どもを産んでいないので、姉に嫉妬するようになりました。そしてとうとう、「何とかしてください。私も子どもが欲しいのです。でないと、死んでしまいそうです」とヤコブに言いました。

ヤコブは腹を立てて言いました。「何だって? 私は神様ではない。おまえに子どもが与えられないのは、神様がそうしておられるからだろう。」

「そう、では召使のビルハと寝てください。あの子にあなたの子どもができたら、私の子どもにするから。」 こうして、ヤコブはビルハをそばめとしました。 やがてビルハは男の子を産みました。 ラケルは、「神様は正義を行ってくださった。願いどおり息子を下さったのだから」と言って、その子をダン〔「正義」の意〕と名づけました。 ラケルの女奴隷ビルハは、二人目の男の子を産みました。 ラケルは、「死に物狂いの争いだったけど、とうとう姉さんに勝った」と言って、その子をナフタリ〔「争い」の意〕と名づけました。

一方レアは、もう子どもが産めなくなったので、召使のジルパをヤコブのそばめにしました。 やがて、ジルパは男の子を産み、レアはその子をガド〔「運が開ける」の意〕と名づけました。 ジルパはまた男の子を産んだので、 レアは、「私は幸せ者だわ。ほかの女たちもきっとそう思うでしょう」と言って、その子にアシェル〔「幸福」の意〕という名をつけました。

さて、麦の刈り入れが始まったある日のこと、長男ルベンが野で恋なすび〔果実に強い麻酔性のある薬用植物で、食べると身ごもると信じられていた〕を見つけ、母レアのところに持って来ました。ラケルは黙っていられず、レアに、自分にも少し分けてくれるよう頼みました。

レアは腹を立てて言いました。「夫を取っただけではまだ不足なの? 私の息子が見つけて来た恋なすびまで取り上げるなんて、あんまりじゃない。」

ラケルは答えました。「だったら、こうしましょうよ。恋なすびをくれれば、今夜は姉さんがあの人と寝てもいいわ。」

夕方、畑から戻ったヤコブをレアが出迎えました。「今夜は私のところへ来てくださいね。ルベンが見つけた恋なすびをラケルにあげた交換条件ですから。」彼はそうしました。 神はレアの祈りに答え、彼女に五人目の男の子を授けてくださいました。 彼女は、「夫に私の女奴隷を与えたので、神様が報いてくださった」と喜んで、その子の名をイッサカル〔「報酬」の意〕としました。 その後またレアに、六人目の男の子が生まれました。 彼女は、「神様は、夫が一番喜ぶ贈り物を下さった。六人も男の子を産んだのだから、今度こそ、あの人も私を大切にしてくれるでしょう」と言って、ゼブルン〔「贈り物」の意〕と名づけました。 そのあと、今度は女の子が生まれ、ディナと名づけられました。

神はラケルを忘れてはいませんでした。ラケルの苦しみを見て、祈りに答え、男の子をお与えになりました。 男の子が生まれた時、彼女は、「神様は私の恥を取り除いてくださった」と言って、ヨセフ〔「もう一人、子どもが授かるように」の意〕と名づけました。「男の子をもう一人授けてください」と願ったからです。

ヤコブとラバンの抗争

ヨセフが生まれてしばらくたって、ヤコブは突然、ラバンに言いました。「そろそろ国へ帰りたいと考えています。 もちろん妻と子どもたちもいっしょです。それだけのことはしてきたつもりです。こんなに長い間、あなたのために身を粉にして働いたことは、よくご存じでしょう。」

「そんなことを言わず、ここにいてくれないか。実は、占い師に見てもらったのだ。そうしたら、私がこんなに恵まれてるのは、全部おまえのおかげだというではないか。 報酬が不足なら、上げてやってもいい。ここにいてくれるなら、おまえの望む額を喜んで出そうじゃないか。」

「知ってのとおり、私は長年あなたのために忠実に働きました。それで、あなたの家畜がこんなに増えたのです。 私が来たばかりの時は、財産といってもほんの少ししかなかったのに、今はかなりのものです。それというのも、神様が、私のすることは何でも祝福してくださったからです。それなのに、当の私はどうでしょう。いつになれば自分の財産が持てるのですか。」

「で? 何が欲しいのだ。」

「条件は一つだけです。それさえのんでもらえれば、また喜んで働きます。今日、私はお義父さんの群れの番をしますが、まだらやぶちのあるやぎと、黒い毛の羊は、すべて別にしますから、それを私に下さい。 あとで、もし私の群れの中に白いやぎや羊が一匹でもいれば、私があなたのものを盗んだことになる、というわけです。」

「いいだろう。おまえの言うとおりにしよう。」

さっそく、ラバンは外に出て、ヤコブのために家畜の群れを分けました。雄でも雌でも、ぶちやしまのあるやぎ、つまり黒の中に少しでも白い部分のあるやぎと、黒い羊ばかりの群れができました。それがヤコブのものです。ラバンは自分の息子たちにその群れをゆだね、歩いて三日ほどかかる場所へ連れて行かせました。ヤコブは、ラバンの残りの群れの世話をしました。

彼はまず、ポプラ、アーモンド、プラタナスの若枝を切り、皮をむいて白い木肌を出しました。 それを、群れが水を飲みに来たとき自然に見えるように、水飲み場のそばに置きました。家畜は水を飲みに来たとき交尾するので、 そうしておくと、やぎは白いしまのある枝を見ながら交尾することになり、その結果、ぶちやしまのある子が生まれるというのです(そのように信じられていた)。それはみな、ヤコブのものになりました。次に、ラバンの群れから雌羊を取り出し、自分の黒い雄羊とだけ交尾させるようにしました。ヤコブの群れは増える一方です。 そればかりではありません。彼は、力の強そうなのが交尾している時は、皮をむいた枝をそばに置き、 弱そうなのが来た時は、置かないようにしたのです。それで、あまり丈夫でない子羊はラバンのものとなり、丈夫なのはヤコブのものとなりました。 当然、ヤコブの群れはどんどん増え、らくだやろばも増えました。彼は召使も大ぜいかかえ、たいへんな資産家となりました。

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