エステル 記 6:1-14, エステル 記 7:1-10, エステル 記 8:1-17 JCB

エステル 記 6:1-14

6

栄誉を受けるモルデカイ

さてその夜のこと、王はどうしても寝つくことができませんでした。しばらく読書でもしようかと、書庫から王国の記録文書を持って来させました。読み進むうち、ある項目に目が行きました。門の警備に当たっていた役人ビグタンとテレシュが企てた、王の暗殺未遂事件のところです。計画が未然に防げたのはモルデカイの手柄だとありました。

王は、そばにいた者に尋ねました。「このモルデカイに何かほうびを取らせたか。」「何も取らせてはおりません。」 「誰か外庭で勤務についている者はいないか。」王がこう言った時、例の絞首台にモルデカイをつるす許可を得ようと、ハマンが城の外庭にさしかかりました。 家来は答えました。「ハマン様がお見えです。」「ちょうどよい。ここへ呼べ。」

ハマンが来ると、王はさっそく話を切り出しました。「ほうびを取らせたい者がいるのだが、どんな栄誉を与えたらよいものか。」ハマンは心のうちで思いました。「きっと私のことだ。私以外に、陛下が栄誉を与えたいと思う者などいるはずがないではないか。」 そこで、わくわくしながら意見を述べました。「陛下ご着用の王衣、それにご愛馬と王冠をお取りそろえください。 そして、最も身分の高い貴族の一人にその人の世話をさせてください。つまり陛下の服を着せ、ご愛馬に乗せ、くつわを取らせて通りを引いて行かせるのです。その時、その者に『陛下のお心にかなう人は、このような栄誉を受けるのだ!』と皆に聞こえるように言わせてはいかがでしょう。」 「名案だ!」 王は思わずひざを打ちました。「大至急、王衣を持って来させ、私の馬を引いて来て、そのとおりにしてくれ。栄誉を受けるのは宮廷務めのユダヤ人モルデカイだ。今言ったことを、そっくりそのまま実行するのだ。」

ハマンはしぶしぶモルデカイに王衣を着せ、王の愛馬に乗せ、くつわを取って通りを引き歩きながら、「王のお心にかなう人は、このような栄誉を受けるのだ!」と叫びました。 モルデカイは勤務に戻りましたが、おさまらないのはハマンです。何とも言えないみじめな気持ちで家に逃げ帰りました。 妻のゼレシュや取り巻きたちに事の次第を話すと、一同は頭をかかえるばかりでした。「まずいですね。モルデカイがユダヤ人だと陛下に知れた以上、あの男を亡き者にする計画は台無しです。それどころか、いつまでもモルデカイを目の敵にしていたら、かえって命取りになります。」

皆があれこれ知恵をしぼり、善後策を講じている最中に、王の使いが来て、エステルの設けた宴へ出向くようモルデカイをせき立てました。

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エステル 記 7:1-10

7

ハマン、処刑される

王とハマンはエステルの宴にやって来ました。 酒がふるまわれるころ、王はもう一度尋ねました。「エステルよ、いったい何が欲しいのだ。願い事を申すがよい。帝国の半分でも、何でもかなえてやろう。」 ついに、王妃エステルの重い口が開きました。「ああ、陛下。もし私を愛し、お心にかけてくださいますなら、何とぞ私と私の同胞のいのちをお助けください。 このままでは、私も同胞の者たちも助かるすべはありません。皆殺しにされる運命なのです。奴隷に売られるだけなら、口をつぐんでもいられました。もちろんその場合でも、陛下は測り知れない損失をこうむられたでしょう。実際、それはお金では償えないほどのものでございます。」

王は唖然として言いました。「何のことを申しておるのか。かわいそうに、いったい、だれがそのようなことをしようとしているのだ。」 「恐れながら陛下、ここにおりますハマンこそ、悪の張本人、私どもの敵でございます。」

ハマンの顔からは、みるみる血の気が引いていきました。 王は怒り、荒々しく立ち上がると、庭に出て行きました。もうだめだ、自分のいのちは風前の灯だと察したハマンは、立って王妃エステルに命乞いを始めました。 ハマンは絶望のあまり、エステルの腰かけていた長いすに崩れかかりました。ちょうどその時、王が庭から引き返して来たのです。「この宮殿の中で、しかも私の目の前で王妃に手を出すつもりか!」 王の怒りが爆発しました。ハマンの顔には、その場で直ちにベール(死刑囚が死刑執行の前にかけられるもの)がかけられました。

その時、王の側近ハルボナが申し出ました。「陛下、ハマンはモルデカイをつるそうと、五十キュビトもある絞首台を自宅の庭に作らせています。暗殺者の手から陛下のいのちを救った、あのモルデカイを処刑しようとしていたのです。」 王はすかさず命じました。「ハマンをそれにつるせっ!」  こうしてハマンは処刑されたのです。それでようやく王の憤りもおさまりました。

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エステル 記 8:1-17

8

ユダヤ人を救済する勅令

その日、アハシュエロス王は、ユダヤ人の敵ハマンの財産を、そっくり王妃エステルに与えました。続いて、モルデカイが王の前に召し出されました。モルデカイがいとこであり養父であることを、エステルが明かしたからです。 王はハマンから取り返した指輪をはずしてモルデカイに与え、即座に総理大臣に任命しました。エステルはモルデカイに、ハマンの財産の管理を一任しました。

ハマンのことが片づくと、エステルはもう一度王の前に出て、足もとにひれ伏し、ユダヤ人に対するハマンの企みを無効にしてくださるようにと、涙ながらに訴えました。 この時も、王は金の笏を差し伸べたので、彼女は身を起こし、立ち上がって、 こう願い出ました。「もしこれがお心にかない、私をあわれとおぼし召されますなら、どうぞ勅令を出して、諸州のユダヤ人を殺せというハマンの指令を取り消してください。 同胞がむざむざ殺されるのを、とても黙って見てはおられません。」

王は王妃エステルとモルデカイに答えました。「おまえたちユダヤ人に手を下そうとしたハマンを、私は絞首台につるし、家も没収してエステルに与えたではないか。 ユダヤ人の件については、私の名を用いて思いどおりの通達を出すがよい。王の指輪で印を押すのだ。だれにも有無を言わせないためだ。」

直ちに王の書記官が召集されました。それは第三の月の二十三日のことでした。彼らはモルデカイが口述するままに、インドからエチオピヤに及ぶ全百二十七州の、ユダヤ人をはじめ役人、総督、領主にあてた文書を作成したのです。この文書は、各民族の言語、方言にも翻訳されました。モルデカイはこの文書を、アハシュエロス王の名を記し、王の指輪で印を押して、王室専用の急使に託しました。彼らはめいめい、らくだ、らば、若いひとこぶらくだなどにまたがって、全国各地に飛んで行ったのです。

この通達には、各地のユダヤ人に対し、自らと家族のいのちを守るために武装蜂起すべきこと、また敵には全力を上げて対抗し、その財産を奪ってもかまわないことが記されていました。 しかも、全州いっせいに、その決行日は第十二の月の十三日、その一日のうちと定められていたのです。 さらに、この勅令の写しをとって各州の法令とすること、勅令は全国民に公示して、ユダヤ人が敵を打ち倒す十分な準備ができるようにすること、と書き添えてありました。 王の急使は、特命を受けてふだんよりいっそう速く、駆けに駆けて先を急ぎました。勅令はシュシャンの城内でも発布されました。

ユダヤ人の勝利

モルデカイは青と白の王服をまとい、大きな金の冠をかぶり、しなやかなリンネルと紫の外套をひるがえして、王の前から、喜びに沸き立つ群衆であふれる大通りへと、姿を現しました。 集まった誇らしげなユダヤ人の間からは、どっと歓声が上がりました。 王の勅令が届いたどの町、どの州でも、ユダヤ人の顔は喜びに輝きました。彼らはその日を祝日にして、盛大な祝賀会を開いたのでした。国民の中には、ユダヤ人のふりをする者も大ぜいいました。ユダヤ人の仕返しを恐れたからです。

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